古雜文庫 趣意書

古雜文庫は、パブリック・ドメインとなったテキスト作品を電子書籍にして公開するという、ぼくの個人的な(ちょっとショボイ)プロジェクトなんだけど、「それだったら青空文庫とかあるんじゃね」と言われそうだよね。

そこでだ、どんな思いで、青空文庫と違う形で、シコシコとこんなプロジェクトをやっておるかという口上を、ここに述べておくことにします。

パブリック・ドメインはインターネットと相性がいい

著作物は、著作権保護期間がすぎると、著作権保持者の手をはなれ、パブリック・ドメインつまり公有のものとなる。そうなれば、誰もが自由にその著作物を複製したり、それを配布したりできる。それは、先人の著作を誰もが利用できることが、公衆の利益につながるという考え方に立ってのことなのだろう。

そうはいっても、パブリック・ドメインの著作を誰もが利用できるかというと、そうは簡単ではない。それなりに有名な人の著作物なら出版されることだってあるかもしれないが、一度公刊されたっきりって本は山ほどある。そこらの市民図書館に収蔵されているというわけでもない。そこへインターネットという仕掛けが現れた。インターネットならば、パブリック・ドメインの作品をウェブにアップしとけば、多くの人が利用できんじゃない。そういうことを、インターネット黎明期にマイケル・ハートという人が思いついて、1971年にプロジェクト・グーテンベルグがスタートした。これにならってということなのかどうかは知らないが、同じようにネットでパブリック・ドメインを公開する活動は世界中に広まっている。日本でも1997年に青空文庫が始動した。そして、それに追従するように、そこまで大規模ではないが、パブリック・ドメインを公開しているサイトがいくつか現れた。

パブリック・ドメインは、ずっと昔からあった。でも、それは片隅でひっそりと息をひそめていた。それがインターネットによって一挙に花開いた。パブリック・ドメインは本当にインターネットと相性がいいんだ。

Epub3でパブリック・ドメインを

で、ぼくもパブリック・ドメインのテキスト作品のネット公開に参加しようと考えた。だって、先人たちが残し、公有資産となったテキスト作品が、多くの人が読むことができるって、なかなか素晴らしいことじゃないか。

どういう形でやろうかと考えた時に、Epub3で提供することを思いついた。Epub3は、電子書籍の仕様だし、対応するブック・ビュアーも多くなった。読んでもらうからには、電子書籍っていうのが一番いいだろう。それにEpub3は、思ったより簡単で、ぼくでも作れる。

Epub3にしたのは、それだけじゃない。Bibiという、Epub3をウェブ・ブラウザで表示してくれるスクリプトがあるので、これを使えば、ブック・ビューア持ってませんという人にも読んでもらえるし、ダウンロードする前に、中身を確認したいってご要望にも応じることができる。

というわけで、古雜文庫は、Epub3でパブリック・ドメインのテキスト作品を公開していきます。ネタは、古雜の名のとおり、古い雑誌や古本から、雑多にやっていきます。まだ置いている作品数はすくないけど、古本屋さんを覗くつもりで、見て下さいな。

なぜ青空文庫でやらないのか

で、ここからは、なぜ青空文庫でやらないのかという話をする。

青空文庫は、なかなかあっぱれなプロジェクトである。パブリック・ドメインの公開サイトとしては日本では一番の老舗だし、多くのボランティアが参加して作業できる仕組みがあって、品揃えも多いし、ちゃんと自前のサーバがある。(サーバは、けっこう大事。古雜みたいな個人がやってるプロジェクトだと、どっかのレンタル・サーバを使うことが多いけど、何かの理由で契約更新されないと消失する。それにサービス自体が終了することもある。プロジェクト杉田玄白は、翻訳参加者が作品を自分で置き場を用意するのが原則だったから、いまじゃかなりのものがアクセスできなくなっている)

ぼくも最初は、青空文庫の工作員をやろうと考えてみたことがある。だけど、工作員マニュアルを見るとやる気が失せた。記法が青空文庫形式で、字下げだの見出しだの注記で書くようになってて、なんか冗長なんだ。で、さらに文字コードはシフトJISだし行末はCR+LFだし、要はMicrosoft仕様なんだ。まあ、青空文庫が始まった時期を考えると、そういうやり方になったのは、理解できる。まだDOS/Vマシンが主流で、テキストベースの環境なんて人も多かった時代なんだから、多くの人が参加するには、こういう取り決めにするしかなかったんだろう。

もう一つの問題は、校正だ。青空文庫では入力者とは別の人が校正して、正確性を保証してから公開する仕組みになっている。このこと自体はもっとも至極な話ではあるのだけれど、古本やら古雑誌の記事なんかをターゲットにすると、同じ底本を手に入れるのも困難を伴いそうで、果して校正者が現れるかどうか。それに、青空文庫の状況を見ていると、校正の滞留がかなりありそうなのだ。

そういうことで、結局は青空文庫でやるのはあきらめた。